Tomoko's Art主婦日記

アート主婦の作品を紹介するブログです。

やっと会えた!日本画の巨匠の絵


広尾にある日本画専門の美術館にて2枚のポストカードを買った。これらの絵にやっと出会えた記念である。


f:id:t-mokoart:20180902085215j:image

左から鳴門 、那智の滝  奥村 土牛 作

 

 

prologue-プロローグ

奥村 土牛

おくむら とぎゅう

近代日本画の巨匠(1889~1990   101歳 没)

師-小林 古径

1962年 文化勲章受賞

代表作-鳴門など…

 

先日、山種美術館に企画展、「水を描く」を見に行ってきました。今回このブログに記録したい事は長くなりそうな為、話を2部構成に分けようと思います。今日だけはゆっくりとお読み頂けたら幸いです…。

 

 

 


f:id:t-mokoart:20180901233803j:image

第1章   

先日、山種美術館に足を運びました。この日の最大の目的は日本画の巨匠、奥村 土牛の代表作、「鳴門-なると」を見に行くこと。

さかのぼる事数年前、あること をきっかけに愚かな私はほとんど猪突猛進モードでこの絵見たさに初めてこの美術館を訪れたのです。館内を突き進み、キョロキョロ。おかしい、お目当ての絵が見つからないので係の人に聞いてみると、「お客様、あの絵はいつも展示しているわけではないのです」、、、。

との残念なひと言。美大卒でこんなレベルでお恥ずかしい話であるが、私はこの絵が簡単に見られるものなのだと思い込んでいた。

という訳でその日は空振り、しばらく鳴門に会える日はお預けであった。そして水をテーマのこの企画によりやっとチャンス到来。この度本物の作品にご対面できる形となったのである。はやる気持ちを押さえながら会場を順序通り進み、いよいよ次の作品が鳴門。初対面の瞬間、ゾクッとした。

 

圧倒的な画品を感じたからである。押さえられたシックな色調の中にも幾重にも重ねられた色の濃淡があり、幽玄でとにかく深い。感動で絵の 前に立ちすくんだ。そして私の中でもうひとつの別の記憶が呼び起こされた。これが奥村さんのお父様の描いた作品なのだと思いながら…。そして数年前に杉並区松庵にあるフォトスタジオのワークショップに参加した時に出会った奥村 森さんの土牛さんにそっくりの顔を少し思い出したりした。

 

第2章   松庵舎 ワークショップ


f:id:t-mokoart:20180902152928j:image

 

 

 

 

数年前、何気なくNHK日曜美術館、再放送を見ていた。テーマは高齢になっても画業を続けた日本の画家達というもので、その中でも一番印象に残ったのが、とりわけ年齢の高そうな百歳近い奥村画伯のドキュメンタリーであった。

 

肉体に残されたわずかなエネルギーをふりしぼり、やっとの思いで作品に筆を入れる巨匠の姿は痛々しいくらいに見えた。それでも老画家はその時取り組んでいた富士を真に迫って描く事にこだわり、写生のために家族にサポートされながら富士の見える宿まで訪れる。車に横たわる巨匠の目は静かに空を見ていた。どうみても肉体の限界、生きるにも精一杯のはずであろうに、、、そこまでするのか!と正直この日本画家の執念を狂気とさえ感じた。

 

それからしばらくしたある日、近所を散歩していると一つの張り紙が目にとまった。それは奥村 土牛の四番目の実の息子さんを講師に迎えたワークショップの案内であった。

 

そして興味を引かれた私はこの企画に参加したのです。とても少人数の落ちついたワークショップであった。講師の奥村さんは、あの巨匠の生き写しというくらいお顔立ちがそっくりで、私がビックリしたような顔をしていると、微笑んで私が兄弟の中で一番父に似ていますとおっしゃった。

 

お父様の画業の一通りの説明、当時の日本画界の秘話まで話は様々に広がりとても面白かったが、やはり鳴門の絵をどうやって描いたたかという語りはご家族としてのリアルな証言、生の声であり一番興味深かった。

 

特に奥村さんご自身ははよく写生に同行されたそうで、旅先で宿を取ると、お父様のよし行くぞ!のひと言で二人で外に出かけ、暑い日には巨匠が何時間でもスケッチするなか日傘係を延々とさせられたと思い出を語ってくださった。

 

そして、鳴門のお話であるが、この絵はまずお母様の故郷が徳島であることから描くきっかけになった事、又当時はビデオカメラも普及していないから、ひたすら揺れる汽船に乗り鳴門の渦をスケッチした、その時に同行したお母様がカエルのような父の体が海に投げ出されないよう、必死に押さえ、はたで見るとコメディのようでもあるが、大変な苦労で体を張って取り組んだのだと語ってくださった。

 

実際に制作にとりかかるとこれが又大変であったらしく制作は難航したらしい、正確なイメージを掴むためとはいえ、そう何度も徳島に行けるわけではないから、当時自宅の近くで上映された映画のたったいち場面に映るだけの鳴門の渦(うず)見たさに何度でも映画も見たそうだ。

 

又特別だったのは、普段は物静かで決して氏の仕事に口出ししないはずのお母様がこの絵に限っては自分の故郷ゆえか思い入れが強く、ここは違うもっとこうだとか珍しく口を挟んだとおっしゃっていた。

 

そうして徹底的な取材と家族を巻き込みながら、執念で描ききったのが、鳴門であった、後にこの絵は画壇で大きく評価され土牛の代表作となる。そして私は臨場感たっぷりの、その エピソードを聞き感動の覚めやまぬ内に山種美術館に向かったという訳なのでした。

 

今回は他の作家の作品を見つつも、奥村先生の絵を合計3枚見る事が出来た。目的は鳴門の鑑賞であったが、水の関連作品として同時に見た、那智の滝、雨趣、も素晴らしい作品であった。どの作品も丹念な仕事の跡が見られ、画品があるのは共通している。

 

いつも思うけれど、わざわざ美術館まで出向き本物を見る事は絶対に大事な事である。その作品の本当の大きさの前で、作品のオーラを肌で感じる事、人が情熱をかけて手掛けた作品からは必ず何かが伝わってくる。それは間違いなく崇高で美しい。

 

これからも、山種美術館は様々な企画を打ち出し、先生の作品を紹介してくれることだろう、スケジュールをしっかりと確認して今後もまだ見ぬ作品との出会いを楽しみにしていきたいと思う。

 

そして一時の出会いであったけれど、偉大なお父様の功績を語り続けることが私の使命とおっしゃっていた、奥村さん、これからもお元気で活動をお続け下さい。

 

  長くなりましたが、これもアート主婦としての私の貴重な経験、今回のブログに記録致しました。読んでくださった方、ありがとうございます。

 

  Tomoko.